2007年度Kurt Jellinger Prizeを受賞して・小澤鉄太郎

2007年9月17日
新潟大学脳研究所神経内科
小澤鉄太郎

この度,2007年度Kurt Jellinger Prizeを受賞し,大変光栄に存じております.この賞は,Acta Neuropathologicaに投稿された,神経病理学に関連した神経科学の領域における優れた総説論文に贈られるもので,過去の受賞者は第一回・2005年度のDr. Robert Hevner(米国,シアトル),2006年度のDr. Katrin Beyer(スペイン,バルセロナ)であり,私で3人目の受賞者となる.実は,私は2006年度も総説論文「Pathology and genetics of multiple system atrophy: an approach to determining genetic susceptibility spectrum」(Acta Neuropathol 2006;112(5):531-8)にて応募したが,これは惜しくも落選し,今回2度目の挑戦で賞を獲得できた.受賞論文は,「Morphological substrate of autonomic failure and neurohormonal dysfunction in multiple system atrophy: impact on determining phenotype spectrum」(Acta Neuropathol 2007 114(3):201-11)である.

この賞を知ったきっかけは日本神経病理学会のホームページの記事であった.Kurt Jellinger先生とは,2003年の2月にオーストリアのインスブルックで開催されたInternational Meeting of Atypical Parkinsonian Disordersでお会いしたことがあった.先生のMSA病理についての講演を聴き,質疑応答に参加し,その後のランチタイムでは偶然,配膳を待つ列で先生が私の直前におられたのでご挨拶をしたのを憶えている(先生が私を憶えておられるかは未確認).これは,私がロンドンのInstitute of Neurology Queen Squareに留学中の出来事であり,帰国後しばらく経ってこの賞の設立を知り,インスブルックでのKurt Jellinger先生との短い思い出が瞬時に蘇り,応募を心に決めた.このような経過を顧みると,この賞は私に,研修医の一年生でMSAの研究をこころざし,日本と英国で多くの先生方にお教えを頂き,Kurt Jellinger先生と出会い,そして現在の自分へと繋がる一本の線を見せてくれたように感じた.

2007年9月5日~8日にドイツで開かれた,The 52nd Annual Meeting of the German Society of Neuropathology and Neuroanatomy (DGNN)にて,この賞の授賞式と私の受賞講演(Kurt Jellinger Prize Lecture)が行われた。学会開催地のGreifswaldはベルリンから少し北に位置し、バルト海に面した学術都市である。ここはGreifswald大学を中心にして形成された歴史の深い都市で、大学キャンパスがそのまま街になっており、どこも多くの学生でにぎわっていた。授賞式の行われた9月7日は朝から晴天で、「今の季節には珍しい好天」と地元の研究者が教えてくれた。この日の朝一番のセッションに授賞式と受賞講演が予定されていた。賞のプレゼンターは、Acta NeuropathologicaのEditor-in-chiefのProf. Werner Paulus(Fig.1)であった。彼から、この賞の背景、私の略歴などの紹介があった.また,臨床に立脚した研究姿勢とその対象がMSAであった点が,Kurt Jellinger先生の歩まれた軌跡の一部分と重なることが,私の受賞理由のひとつであったことが話された.そして賞状を受け取った (Fig.2)。その後、私のレクチャー「Multiple system atrophy: overview of the phenotype spectrum」を約 40分間行い (Fig.3)、多くの質問を受けた。質問の内容は細かい初歩的なものから病態を考える上でとても重要なものまで多岐にわたった。すべての質問に答えられる範囲でお答えし、おおむね満足してもらえたと思う。

この2007年度Kurt Jellinger Prizeを受賞して,これまでの自分の歩みをさらに先へ進ませる勇気が湧いてきた.今後も臨床と病理の丹念な所見の照合を経て,MSAの病態をさらに明らかにするよう努力したいと思う.そしてこれからも患者のためにできることを続けようと思う.