髄膜腫meningioma
2008年4月
群馬大学医学部附属病院病理部  平戸 純子
I. 髄膜腫とは
 脳腫瘍は100種類を超える様々な種類がありますが、大きく2つに分けることができます。脳実質から発生する腫瘍と実質の外側に発生する腫瘍です。脳実質に発生する腫瘍は神経上皮性腫瘍と呼ばれ、神経膠腫や神経細胞性腫瘍が含まれます。これらの腫瘍は他の項目で解説されています。脳実質の外側に発生する腫瘍には、髄膜腫と神経鞘腫があります。
 脳は頭蓋骨の中にありますが、直接骨に接しているわけではなく、髄膜という膜で覆われています。髄膜は外側の硬膜と脳実質側のクモ膜に分かれており、このクモ膜の表面を覆っている髄膜皮細胞(クモ膜細胞)から発生した腫瘍が髄膜腫です。髄膜皮細胞は、頭頂部を前頭部から後頭部に向かって走行する矢状静脈洞の傍らにあるクモ膜顆粒という構造に集簇して認められます(図1,2)。髄膜腫のほとんどが脳の表面に発生しますが(図6)、髄膜は脳の表面を覆うだけでなく、脈絡叢と一緒に脳室内にも分布していますので、脳室内に発生することもあります。
 病理組織学的には髄膜腫は様々な形態を示すため、多数のサブタイプに分けられています。多くは良性で脳実質の外側に発育しており,浸潤性に増殖することは稀です。サブタイプの一部には脳実質に浸潤して再発を繰り返し、悪性の経過を示すものがあります。

II. 臨床的な特徴
 髄膜腫は、脳腫瘍の中では神経膠腫に次いで多く,脳腫瘍全体の約27%を占めています。中高年者に発生しやすく男女比はおよそ1:2.7で、中年女性に発生しやすい腫瘍といえます。発生しやすい部位は円蓋部、大脳鎌、傍矢状静脈洞部、蝶形骨縁、小脳テント、傍トルコ鞍部で、先に述べたように脳室内に発生することもあります。CT スキャンやMRIの画像では硬膜に付着した結節性病変あるいは扁平隆起性病変として認められます(図3,4)。造影剤で陰影が濃く強くなることが特徴的です。
 徐々に発育する腫瘍で、近くの脳を圧迫することで症状が出現するため、発生した部位によって症状が異なります。一般的には頭痛やけいれん発作が頻繁に認められる症状です。生前症状がなく、剖検にて発見される髄膜腫もあります(図5)。

III. 病理学的特徴
 肉眼的には、硬膜に広く付着して境界が明瞭な結節性(塊状)病変を形成しますが(図6)、部位によっては、扁平な板状の病変を形成することもあり、en plaque meningiomaと呼ばれています(図4)。腫瘍の割面は、灰白色で硬く弾力性がありますが、腫瘍に含まれる線維成分の量によって硬さは異なります。大きくなると脳実質を圧迫して陥凹させますが、多くは脳実質との境界は明瞭です(図6,7)。少数の症例では、脳実質との境界が不明瞭で浸潤が認められます。
 髄膜腫は顕微鏡で観察してみると細胞の形と組織の構築がさまざまであることがわかります。このため、形態学的な特徴から15種類のサブタイプ(組織亜型)に分けられています。髄膜皮細胞は、組織が外界に接する部分を覆う上皮細胞の性格と膠原線維などの細胞外基質を産生する間葉系細胞(たとえば線維芽細胞)の性質を持っています。このような性質が腫瘍化することによって強調されて現れていると考えることもできます。
 また、細胞の形の特徴や組織の構築のパターンからみた分類のほかに再発しやすさや脳実質への浸潤、破壊性の強さ、増殖能力の程度などの観点から、悪性度の分類(グレード分類)が行われています。グレードIが良性、グレードIIが中間悪性、グレードIIIが悪性で三段階に分類されています。 次にそれぞれのサブタイプの組織像の特徴を解説します。

IV. 各種サブタイプの病理組織学的特徴
  1. 良性髄膜腫
    1)髄膜皮性髄膜腫Meningothelial meningioma、グレードI
    もっとも一般的で髄膜腫を代表するサブタイプです。腫瘍細胞は、核膜が厚く円形あるいは楕円形の核と広い好酸性の細胞質を持っています。細胞境界が明瞭でなくいくつかの細胞が融合しているように見えます(図8)。細胞が渦巻き状あるいは玉ねぎ状に配列するwhorlと呼ばれる構造が特徴的です。石灰化を示す小体(砂粒体)が出現することも髄膜腫の組織学的な特徴の一つです。

    2)線維性髄膜腫Fibrous meningioma、グレードI
    線維芽細胞に似た紡錘形の細胞の増殖からなり、腫瘍細胞の間に膠原線維が多量に形成される腫瘍で、頭蓋外に発生する線維性腫瘍に似ている腫瘍です(図9)。線維成分が多いため非常に硬い腫瘍です。

    3)移行性髄膜腫Transitional meningioma、グレードI
    髄膜皮性髄膜腫と線維性髄膜腫の中間的な像を示す腫瘍で、紡錘形細胞が束状に並び、流れを形成するように増殖しています(図10)。細胞間に少量の線維性成分を含むこともあります。

    4)砂粒腫性髄膜腫Psammomatous meningioma、グレードI
    砂粒体が多数出現する腫瘍で、腫瘍実質は通常、移行性髄膜腫または線維性髄膜腫からなります。脊髄に発生しやすい腫瘍です(図11)。

    5)血管腫性髄膜腫Angiomatous meningioma、グレードI
    大型から小型の血管が多数増生しており、血管の間に髄膜腫細胞が認められます(図12)。毛細血管が高密度に増生し、あたかも血管腫のようです。

    6)微小嚢胞性髄膜腫Microcystic meningioma、グレードI
    髄膜腫細胞間に大小の空胞あるいは嚢胞様腔隙が認められ、実質が網目状構造を示す髄膜腫です(図13)。好酸性硝子滴や脂質を取り込んで泡沫状の細胞質を持つ腫瘍細胞もみられます。血管が豊富で壁が硝子化した血管が出現し、前項の血管腫性髄膜腫と共通する点があります。

    7)分泌性髄膜腫Secretory meningioma、グレードI
    好酸性円形の小体を入れた腺腔様構造が多数出現する髄膜腫で(図14)、この小体はPAS染色陽性で偽砂粒体pseudopsammomatous bodiesと呼ばれています。電顕的所見では微絨毛を伴う小腺腔構造を形成しており、上皮の性質が明瞭となっています。分泌上皮への分化が明らかとなった髄膜腫といえます。

    8)リンパ球・形質細胞に富む髄膜腫Lymphoplasmacyte-rich meningioma グレードI
    高度の形質細胞・リンパ球浸潤と線維化を伴う髄膜腫です (図15)。炎症性病変部と腫瘍実質の割合は様々で、リンパ球、形質細胞の浸潤が著しい場合、髄膜腫成分を見いだすことが難しい症例もあります。炎症性偽腫瘍やロサイ・ドルフマン病などと鑑別する必要があります。

    9)化生性髄膜腫Metaplastic meningioma、グレードI
    間葉系細胞への分化を示す髄膜腫で、骨、軟骨の形成を伴うものや脂肪腫様変化、黄色腫様変化、粘液腫様変化を示すものが含まれます。このうち髄膜腫細胞が脂肪細胞様の変化を示すものは脂肪腫性髄膜腫と呼ばれており、脂肪組織によく似ていますが(図16)、電子顕微鏡レベルでは、デスモゾームの存在など髄膜腫細胞の性質が観察されます。


  2. 中間悪性髄膜腫
    1)異型性髄膜腫Atypical meningioma、グレードII
    高い細胞分裂能を示す髄膜腫、あるいは、腫瘍細胞の密度の上昇、核/細胞質比の高い小型細胞の巣状の出現、明瞭な核小体、配列の特徴的がない一様なシート状の増殖、自然発生的あるいは地図状壊死巣(図17)の5個の特徴のうち3個以上あるものいいます。分裂能は通常は核分裂指数(強拡大10視野あたりの核分裂像の数)で表わされ、高い細胞分裂能を示す髄膜腫とは、核分裂指数が4個以上ものを指しています。しばしば脳実質への浸潤を伴います(図18)。
     細胞分裂能は、核分裂指数以外にKi-67(MIB-1)陽性率で評価されることが多くなりました。Ki-67は、増殖期にある細胞に発現する抗原で、Ki-67抗体(MIB-1は抗体のクローン名)を利用した免疫染色を行い、陽性に染まった核を計測して陽性率を計算し、評価します(図19)。通常、1000個程度の腫瘍細胞を計測して陽性率を求めます。染色手技や計測方法の違いから、施設間で陽性率のばらつきがおこりやすいため、統一した基準値は示されていませんが、髄膜腫ではKi-67陽性率が5%以上の場合に増殖能が高いと判断しています。

    2)明細胞髄膜腫Clear cell meningioma、グレードII
    グリコーゲンを多量に含んでいるため、細胞質が明調に見える腫瘍細胞の増殖からなる髄膜腫です。細胞間に硝子化した間質線維が小さな塊を形成して出現することも特徴の一つです(図20)。腰髄硬膜下や小脳橋角部に発生しやすく、頭蓋内に発生するものは再発や播種を起こし、悪性の経過をたどることもあります。

    3)脊索腫様髄膜腫Chordoid meningioma、グレードII
    粘液様基質内に腫瘍細胞が上皮様の索状構造を形成して増殖する髄膜腫です(図21)。骨に発生する脊索腫に類似しているため、このように命名されています。当初、小児に発生しやすく、肝脾腫、鉄不応性貧血、異常免疫グロブリン血症、発育遅延などの全身症状を伴う腫瘍とされていましたが、その後成人にも発生することが明らかとなりました。成人例では全身症状を伴う症例は稀です。


  3. 悪性髄膜腫
    1)ラブドイド髄膜腫Rhabdoid meningioma、グレードIII
    ラブドイド細胞が出現する髄膜腫で(図22)、通常の髄膜腫要素と一緒にラブドイド細胞からなる領域が出現するものとラブドイド細胞のみからなるものがあります。ラブドイド細胞は小児の腎臓に発生する悪性ラブドイド腫瘍で定義された特徴的な形態を示す細胞です。その特徴は核小体が明瞭な類円形の核が細胞質の一側に偏っており、細胞質は好酸性で円形の封入体様構造を入れています。封入体様構造は、間葉系細胞が細胞質内に持っている細線維を構成する蛋白のvimentinが免疫染色で陽性となります(図23)。電子顕微鏡で観察すると封入体様構造は微細な線維の集塊からなっていることがわかります。 このラブドイド細胞は、髄膜腫だけでなく、肺癌や膀胱癌、子宮癌などいろいろな種類の腫瘍に出現します。そしてこの細胞が出現した腫瘍の多くは悪性度が高いことが知られています。短期間で再発を起こし、腫瘍死を引き起こすこともあります。

    2)Papillary meningioma乳頭状髄膜腫、グレードIII
    腫瘍細胞が血管周囲に偽乳頭状に配列し(図24)、増殖する領域が認められる髄膜腫です。胃癌や大腸癌、腎癌の転移および脈絡叢癌、退形成性上衣腫との鑑別が必要です。同時に存在している髄膜腫要素は豊富な核分裂像、壊死、局所浸潤など悪性を示唆する所見を示します。小児に発生しやすく、通常の髄膜腫より若年者に発生します。

    3)退形成性(悪性)髄膜腫Anaplastic (malignant) meningioma
    異型性髄膜腫にみられるような異常所見がより顕著で、明らかな悪性の組織学的特徴を示す髄膜腫をさしています。肉腫や癌、悪性黒色腫に類似した高度の細胞異型を示すもの、あるいは増殖能が異常に高く核分裂指数が20個以上に達するものとされています(図25)。しばしば広い壊死巣が形成されています。

V. 病因
 髄膜腫の発生原因については、現在は明らかではありません。中年女性に発生しやすく、髄膜腫細胞の黄体ホルモンレセプターやエストロゲンレセプターの発現率が高いことから、女性ホルモンが関与しているとの考え方もありますが、研究者間で意見の一致は得られていません。また、他の疾患の治療のために行った放射線治療によって髄膜腫が誘発されることがあり、異型性髄膜腫や退形成性髄膜腫など、悪性度の高い髄膜腫の頻度が高いとされています。

VI. 染色体・遺伝子異常
 髄膜腫では、22番染色体の欠失が、高頻度に認められます。また、神経線維腫症2型症例の半数例に髄膜腫が多発性に発生します。神経線維腫症2型はNF2遺伝子の変異によって引き起こされる疾患ですが、この疾患のない症例に発生した髄膜腫の約60%にNF2遺伝子の変異が認められます。また、この遺伝子異常は線維性髄膜腫や移行性髄膜腫、砂粒腫性髄膜腫に頻繁に起こるとされています。

VII. 治療
 髄膜腫はほとんどが境界明瞭な良性腫瘍であるため、摘出術が行われます。小さな腫瘍で手術が困難な部位にあるときには、ガンマナイフなどの定位放射線治療が行われることもあります。悪性髄膜腫においても可能な限り完全に摘出することが原則とされ、手術後、残存腫瘍がある場合には、放射線照射が行われています。ホルモン療法や抗癌剤を用いた補助療法が試みられていますが、有効性は確定されていません。

VIII. 予後
 再発の頻度は腫瘍摘出の程度に影響され、良性髄膜腫で完全に摘出されれば、治癒が見込まれますが、一部は数年後再発することがあります。組織学的なグレード分類が再発を予測する良い指標となり、良性髄膜腫;グレードIで7-25%、異型性髄膜腫;グレードIIで29-52%、退形成性髄膜腫;グレードIIIで50-94%が再発するとされています(WHO Classification of Tumours of the Central Nervous System 3rd edition, 2007より引用)。